昨年の晩秋、ふと思い立って福島の 会津若松 へ向かった。旅の始まりは 東京駅。

構内の賑わいの中で選んだ駅弁は、どれも美味しそうで迷ったが、結局は素朴な和風弁当に落ち着いた。隣に立っていた年配の男性が「東北に行くなら、やっぱりこういう弁当がいいよ」と笑って話しかけてくれた。その一言で、旅の気分が一気に深まった。

会津若松駅
電車に揺られ、雪がちらつく中で到着したのは 会津若松駅。駅前の冷たい空気に、晩秋から初冬へと移ろう季節を感じた。宿は 庄助の宿 瀧の湯。渓流沿いの露天風呂に浸かると、雪が静かに湯面に溶けていく。温泉で体を温めた後、楽しみにしていた夕食の時間がやってきた。

夕食
案内された食事処では、囲炉裏の火がほのかに揺れ、どこか懐かしい空気が流れていた。膳に並んだのは、会津ならではの郷土料理の数々。最初に口にしたのは、やさしい味付けの「こづゆ」。貝柱の出汁がじんわりと広がり、冷えた体に染み込んでいく。隣の席に座っていた地元のご夫婦が、「それはお祝い事にも出る料理なんですよ」と教えてくれた。
続いて出てきたのは、甘辛く煮込まれた「にしんの山椒漬け」。少しクセのある風味に最初は驚いたが、仲居さんが「お酒に合いますよ」と勧めてくれた地酒と一緒に味わうと、その奥深さに引き込まれた。「このあたりは昔、海が遠かったので、保存のきくにしんが貴重だったんです」との説明に、食文化の背景まで感じられた。
囲炉裏では、串に刺した川魚がじっくりと焼かれていた。ぱちぱちと音を立てる炭火を眺めながら待つ時間もまた贅沢だ。焼き上がった魚を頬張ると、外は香ばしく、中はふっくらとしていて思わず笑みがこぼれる。「今年は川の水もきれいで、いい魚が入ってるんですよ」と、料理を運んできた若いスタッフが誇らしげに話してくれた。
食事の終わりに近づく頃には、体も心もすっかりほどけていた。最後に出された手打ちそばをすすりながら、窓の外を見ると、雪はしんしんと降り続いている。その静けさの中で、地元の人たちとの何気ない会話や、丁寧に作られた料理のひとつひとつが、この旅を特別なものにしてくれていると感じた。
「また別の季節にも来てくださいね」。そう声をかけてくれた仲居さんに見送られながら部屋に戻ると、心地よい満足感に包まれていた。温泉と会津の味、そして人の温かさに触れた一日目の夜は、静かに更けていった。


朝食
二日目も雪は降り続いていた。宿で朝食を食べたのちまず向かったのは鶴ヶ城。白く染まった天守は静謐で、歴史の重みを感じさせる。城内で出会った地元のガイドの方が、「ここは何度雪に包まれても、必ず春を迎える城なんです」と語ってくれた言葉が印象に残った。


その後、飯盛山 に向かい、白虎隊士墓 に手を合わせた。近くの 白虎隊記念館 では、若き隊士たちの生き様に胸を打たれた。

さらに、木造の不思議な建築で知られる さざえ堂 を訪れると、すれ違うことのない参拝路に感心しきり。そこで一緒になった地元のご夫婦が、「子どもの頃から来ているけど、何度来ても面白いんですよ」と話してくれた。最後に 会津武家屋敷 を巡り、雪の中に佇む武家の暮らしを想像しながら、静かな時間を過ごした。

三日目、ようやく空は晴れ渡った。電車とバスを乗り継ぎ、向かったのは 大内宿。展望台から見下ろした雪化粧の茅葺き集落は、まるで時間が止まったかのような美しさだった。

湯野上温泉駅

売店の女性に勧められて名物のねぎそばを注文すると、「ねぎで食べるのが会津流ですよ」と笑顔で教えてくれた。不器用にねぎを箸代わりに使う私を見て、「上手上手」と声をかけてくれたのが妙に嬉しかった。

再び会津若松に戻り、もう一度 鶴ヶ城 へ。天守閣の展望所からは、市内の町並みと、遠く新潟との境に連なる山々がくっきりと見えた。あの雪の日とは違う、澄み切った空気の中で見る景色は格別だった。

会津磐梯山

四日目、名残惜しさを感じながら電車と新幹線で再び 東京駅 へ戻る。行きとは違い、どこか落ち着いた気持ちで構内を歩いている自分がいた。空路で自宅へ戻る途中、ふと今回の旅で出会った人々の顔が思い浮かんだ。
雪景色の美しさだけでなく、土地に根付いた人の温かさに触れた会津の旅。あの時交わした何気ない言葉のひとつひとつが、今も心の中で静かに温もりを灯している。そんな旅だった。

わっぱ飯



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