はじめに
私は、60歳で37年間勤めた職場を退職し、その後、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給しながら働き続けています。
年金を何歳から受給するかは悩ましい問題です。「どうせもらえるなら早くもらいたい」と思う方も多いかもしれません。
しかし実際には、年金を65歳未満で繰り上げ受給しないという選択には、しっかりとした理由があります。ここでは、その理由と、65歳からの受給を勧める理由をわかりやすく解説します。
そもそも「繰り上げ受給」とは?
本来、老齢基礎年金・老齢厚生年金は65歳から支給されますが、希望すれば60歳から前倒しして受け取ることもできます。
ただし、繰り上げ受給をすると年金額が一生減額*される仕組みです。
減額率の違いに注意
* 昭和37年4月1日以前生まれの方:1か月繰り上げるごとに 0.5%減額(最大30%)
* 昭和37年4月2日以降生まれの方:1か月繰り上げるごとに 0.4%減額(最大24%)
例えば5年間(60歳から)繰り上げた場合は、
・昭和37年4月1日以前生まれ:0.5% × 60か月 = 30%減額
・昭和37年4月2日以降生まれ:0.4% × 60か月 = 24%減額
となり、一生そのまま減額された金額で支給され続けます。
65歳未満で繰り上げ受給しなかった理由
① 減額が一生続くから
繰り上げ受給で減額された年金は、途中で「やっぱり戻したい」と思っても元には戻せません。
長寿時代の今、80代・90代まで生きる人も多く、受給期間が長くなるほど減額の影響は大きくなります。
「早くもらって得する期間」より、「損をし続ける期間」が長くなる可能性が高いのです。
② 働いて収入がある場合は税金面で不利
60代前半でまだ働いている人が多い現代では、年金を早く受け取ると所得税や住民税の負担が増えることがあります。
特に給与所得や退職金と重なると、思ったほど手取りが増えないケースも少なくありません。
③ 加給年金や振替加算が受けられなくなる場合がある
厚生年金に加入していた人が配偶者を扶養している場合、加給年金という上乗せがもらえる制度があります。
しかし、繰り上げ受給をするとこの加給年金が支給されなくなることがあるため、結果的にトータルで損をしてしまう場合もあります。
④ 医療・介護などの公的支援とのバランスも大事
65歳になると、公的医療保険が高齢者向け制度に切り替わり、介護保険も本格的に利用できるようになります。
これらの支援が整う65歳以降に合わせて年金を受給する方が、生活設計の安定性が高まります。
65歳からの受給を勧める理由
① 受給額が満額支給される
65歳から受け取れば、減額なしの満額が支給されます。
さらに、働いて厚生年金に加入している人は、65歳までの分が加算されるため、受給額が増えるメリットもあります。
② さらに“繰り下げ”で増額も可能
65歳以降も受給を遅らせる「繰り下げ受給」を選ぶと、1か月ごとに0.7%ずつ増額されます。
70歳まで待てば、なんと最大42%アップ。
長生きすればするほど、繰り下げのメリットが大きくなります。
③ 老後の生活設計を立てやすい
65歳から年金を受け取ることで、退職金や貯金とのバランスを取りながら、安定した老後資金計画が立てやすくなります。
「生活費の柱」が明確になることで、安心して老後を過ごせるのです。
まとめ:焦らず、65歳からが“賢い選択”
人生100年時代。
60歳からの5年間は、健康・仕事・家族の状況が大きく変わる時期でもあります。
この期間を準備期間として、65歳からしっかりとした年金を受け取る方が、結果的に安心でお得な選択になるでしょう。

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